1 コロナ渦でひっ迫した病床を確保するための施策が必要だった理由
多くの皆さんが、ニュースなどで目にしたとおり、コロナ渦では、医療機関はすぐさま混雑し、運営はひっ迫していきました。
誰もが、大きなリスクを抱えた「重症患者」を受け入れようと考えます。
しかし、もっとも困難を極めたのが、この「重症患者の受け入れ」でもありました。
重症患者を受け入れる「重点医療機関」で、隔離期間である2週間もの間入院を継続していると空き病床が増えず、新たな重症患者を受け入れる余地が生まれませんでした。
そこで、神奈川県庁の職員と、ワークログ代表(以下、「弊社」という)の山本は、「転退院調整支援システム」なる仕組みを考案しました。
「転退院調整支援システム」では、容態が回復した患者を、他の医療機関へ転院させる際の調整を効率化し、重点医療機関の病床の確保を目指すことになりました。つまり、「後方支援※」です。
※「後方支援」とは、軍事用語で、部隊の作戦行動を支えるために必要な物資やサービスを提供する業務を指します。補給戦とも呼ばれます。
なにより、既にひっ迫した病床に、新たな患者を受け入れるため、神奈川県の皆さんとともに発案し、ワークログ株式会社の山本は、同システムを、kintoneを活用し、1週間で開発しました。今回は、コロナ渦に開発した「転退院調整支援システム」を紹介します。
2 弊社の山本からの説明の補足を聞くと……?
医療と救助という専門性の高い領域の話だったので、今回、弊社の山本に、「このシステムをわかりやすく一言で表現してほしい」と、頼んでみました。
「表現が難しいんですが、『全員で県民を救おうぜ!』という医療機関の想いがかたちになったシステムなのかな、と思います。
というのは、似たようなシステムって地域ごとに持っていたりするんですよ。医療機関間で情報を共有していて、転院の調整が効率よく行われるよう、平時から連携されています。
ただ、それは県全域ではないんですよね。ある程度医療圏で区切られてしまう。ただ、コロナは医療圏を越えた広域の搬送調整が求められ、それを横断した情報管理システムがなかったんです。
今回、全域で病床数を見える化し転院調整を行っている様子は、私には、神奈川県内の医療機関が大きな1つの組織として、県民を守ろうとしているように見えました。

3 システムの計画をつめ、実装するまで
では、さっそく、どのような順番で、システムの計画をつめていったのか、見てみましょう。
(1)患者の重症度を確認する
まず、神奈川県では、患者の重症度に合わせた機関を選定し、医療提供体制を構築します。

(2)症状の重症度別の「搬送先」を当てはめる流れをつくる
患者さんの状況に応じて、下記のような5段階の搬送先を定義しました。
特筆すべきは「重度の症状の患者さん→重度医療の入院→回復→当時、2週間とされていた療養機関を過ごす病院」といった流れに沿った、搬送体制を組んだことです。
重度の患者さんを受け入れるために、回復し療養機関を過ごす段階にいた患者さんは、別な医療機関に転院していただき、新たな重度の患者さんの受け入れに備える形をとりました。

(3)転退院システムを図解すると?
こちらは、サイボウズ社が準備してくれた図解ですが、要所要所で、デジタル支援が業務を効率化していることがわかります。

(4)主なアプリ
転退院調整支援システムで、kintoneアプリは、次のアプリが代表的なアプリです。
・医療機関が該当者の基礎情報を登録し搬送を依頼する「搬送調整依頼アプリ」
・受入可能な医療機関を検索する「受入可能医療機関アプリ」
・医療機関のマスターデータとなる「下り搬送に係る調査アプリ」等
上記の複数のアプリを連携させ活用させています。

※アプリ画面ホームページ

(5)現場にとって便利だった「kintoneや拡張機能の特徴」
🔳ウェブブラウザで利用可能
Webブラウザで利用することができるため、特定のアプリケーションやソフトウェア等のインストールも不要です。
🔳クラウドサービスのため、医療機関との情報共有が円滑
クラウドサービスを活用しており、医療機関と円滑に情報の共有が可能です。医療機関側で受入可能病床数や条件が変更になった場合でも、最新の情報を共有できます。また、最新の情報に各医療機関が更新が可能です。
🔳組織をまたいだコミュニケーションも円滑になった「プロセス管理」
プロセス管理を設定することで、自治体・医療機関の役割が明確となり、機関をまたいだコミュニケーションも円滑に行うことができます。
🔳条件に合う医療機関を絞り込み検索
医療機関側の受入可能条件と、患者情報(症状や転院先の希望場所など)を管理できるため、条件に合う医療機関を絞り込み検索することができます。
🔳医療機関の地図での表記
医療機関の場所は地図上で把握できるため、通常業務では搬送することのない遠隔地であっても視覚的にわかりやすくなるよう配慮しました。

4 稼働後に感じたことを、山本に尋ねると?
改めて、「転退院調整支援システム」が機能し始めたときはどうでしたか。反響はありましたか?」と山本に尋ねました。
「県内に。オペレータを用意し、代わりに転院調整を行っていました。そのため、比較的多くの依頼があったようです。
このシステムがない時は、『FAXで患者情報を共有し、さらに電話で補足説明をして、それでも調整が難しい場合は別の医療機関に全く同じことをして、それを繰り返す……』という作業があったと聞き、かなり莫大な手間が発生していたようです。
今回は、さらに、転退院調整支援システムに患者情報を登録したら、あとは勝手に転院先を調整してくれるわけですから、医療機関にとってはラクだったと思います。
さらに、山本にこうも尋ねてみました。「成果を時間や量、数字で示すことは可能ですか?」
「件数までは公表できませんが、
『転院調整は1日以上かかっていた作業が2時間程に短縮された』と聞いています。
コロナ禍で転院調整にそれだけ時間がかかっていれば、病床が埋まってしまいますので、後方搬送を円滑に行う上では一定の成果があったんだろうと思っています。
また、とくに、私に直接反響があったわけではないですが、先日仕事で藤沢市民病院にお伺いした時に、『ワークログさんですよね、コロナの時は大変お世話になりました』と言ってくれた人がいて、活用されていたのかな。と嬉しく思いました」
5 毎日新聞のコラムによると……
神奈川県でのコロナ対策について、毎日新聞の取材によると、
「(前略)新型コロナにかかわらず転院先を探すのは通常であれば1日以上かかるというが、後方搬送では9割以上が平均2時間半程度で見つかるという。
横浜労災病院救命救急センター救急災害医療部長で同室搬送調整班の中森知毅医師は「それぞれの医療機関が協力してくれたからこそ、余裕のある状態が生まれつつある」としている。一方、「医療従事者は疲労やストレスを抱えたままだ。一日も早く収束させられるように、県民には感染予防を徹底してほしい」と要望した。」とのことでした。
6 「神奈川モデルの広がり」と「弊社の今後」について
神奈川県では、コロナ対策を、国の方針を踏まえ、対策を次々と発表し、着実に実行していきました。ワークログ株式会社でも、神奈川県庁と連携し、コロナ施策のシステムをを次々とリリースしていました。(前回の事例紹介参照)
こうして、全ての患者の治癒と、医療現場の崩壊を防ぐ手立てとして編み出された「神奈川モデル」は、全国に広がっていきました。
例えば、大阪府では、2021年6月より医療機関間の転院調整を支援する「大阪府転退院サポートセンター」を立ち上げ、本センターで使用するシステムが必要となり、システム開発を行いました。さらに、三重県でも同様のシステムが求められ、ワークログも開発にも携わっています。
ぜひ、全国の行政・自治体の職員の皆様におかかれましては、前例がない取り組みでも前例のある取り組みでも、お気軽に相談してください。皆様の一歩を、今後も全国の支援につなげていきたいと思います。
<了>
小池
< ワークログ株式会社とは>
『テクノロジーでアソボウ』をビジョンに掲げ、個人が持つ知見・強みを活かし、企業のシステム開発や事業企画を支援。システム開発においては、上流工程から参画しビジネス面を考慮しながら行う提案型の要件定義が特徴です。
スピードが求められる場面においては特に定評があり、自治体、大学、不動産業界、人材ビジネス業界など、短期間で成果を出す「本当に意味のあるシステム開発」を求める様々な業界から絶大な評価を受けている。
2020年3月より、神奈川県新型コロナウイルス感染症対策本部の企画・開発に参画し、感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム、発熱等診療予約システムなど、数々のシステムをリリースしています。
代表の山本は2023年7月より神奈川県のDX推進アドバイザーに就任。今後はさらに幅広い業界のDX推進を目指します。
商号:ワークログ株式会社
代表者:代表取締役 山本 純平
本社所在地:〒102-0073 東京都千代田区九段北1-2-2 グランドメゾン九段805
設立:2019年6月
事業内容:IT・コンサルティング